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88話 無謀な提案と、彼の本気

Author: みみっく
last update Last Updated: 2025-09-20 06:00:54

 そのとき、遠くからミリアの怒声が響いた。

「卑怯です!負けたからといって、大勢で襲うのですか!?貴方はっ!」

 その声には、怒りと焦りが混じっていた。金色の淡いセミロングヘアが、彼女の動揺に合わせてふわりと揺れる。そして、その隣で、王様がチラチラとミリアに睨まれていた。

(……王様、完全にとばっちりだな)

 王様は、困ったように視線を泳がせながら、「え?何?俺?」という顔をしていた。

「練習を頼んだんだって!心配しないで見てて」

 ユウヤが手を振って説明すると、ミリアは一瞬むぅっとした顔をしたが、徐々に心配そうな顔に変わっていった。

「……そうなのですかぁ……」

 王様も、ようやく誤解が解けたことに気づき、ほっとしたように胸を撫で下ろしていた。

 そして、観客たちは再びざわめき始める。次なる試合は、五対一。王国の精鋭たちが、ひとりの“薬屋王子”に挑む。

 試合が始まると、当然のように五人の兵士たちがユウヤを囲んだ。全員が木剣を構え、息を合わせて一斉に踏み込んでくる。だが、ユウヤは防がなかった。最初から“防ぐ”という選択肢を捨てていた。

 五本の剣が同時にユウヤの頭上から振り下ろされるその瞬間――ユウヤの身体がふっと沈み、まるで水面を滑るように回り込んだ。相手の剣が振り上げられ、両腕が上がった、わずか一瞬の隙。そこに、迷いなく彼の木剣が打ち込まれる。

――シュッ!

 鋭い風切り音が響き渡る。

――ドスッ! ドスッ! ドスッ! ドスッ! ドスッ!

 まるで雷鳴が轟くかのような鈍い衝撃音が連続して鳴り響き、五人の兵士たちの身体が次々とコマのように吹き飛ばされていく。誰も、ユウヤの動きを正確に捉えられなかった。その動きは、まるで舞踏のような流麗な回転。剣を振るうというより、そこに存在する“流れ”そのものを操っているかのようだった。

 地面に倒れ伏す兵士たちの間を、ユウヤは一歩も乱さずに立ち尽く

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